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『月がきれい』はこうだから、良いアニメだった。 [アニメ周辺・時事]

 もう今は昔・数十年前のまだ若かった頃、氷室冴子さんの『海がきこえる アイがあるから』を読んでいた。アニメになった原作の続編ね。

 そうしたら後書きに、40代だか50代だかの男性読者から熱烈なファンレターが届いたことが書かれていて、当時まだ若者だったぼくは「へえ、おじさんでもこの小説を読むんだ」と思ったものだった。

 さて月日が大幅に流れて、おじさんとなったぼくは『月がきれい』を見たわけだが、存分に楽しむことができた。

 しかしツイッターでハッシュタグを付けられていた「恋テロ」のような楽しみ方とは、少し違っていた。

 それはもう戻らない時代への哀愁であったり、
 横向きの顔が交互に映し出されるカットに「(漫画の)キックオフかよ!」と突っ込む、もしかしたら照れであったり、
 何より娘もあと数年でこういう思春期を迎えるのだ、と思う嬉しさや一抹の寂しさであったり。


クラスの中心女子と、文系少年の構図


 『月がきれい』の話自体は、突飛なものではない。ぼくはツイッターで『桐島、部活やめるってよ』との類似点を指摘していた。



 小太郎くんの席が後ろの端にあるのは、クラスでの位置を暗示しているもので、決して偶然ではないでしょう。

 もっとも劇中でも歌われた『初恋』の、「放課後の校庭を 走る君がいた 遠くでぼくは いつでも君を探してた」を実現させるための席位置とも思えるけれども。

 同じく「クラスの中心」にいる比良くんが、「どうして安曇」みたいなことを言ったはずだけれども、それもこの設定を踏まえてだと思うんですよね。

 茜ちゃんと小太郎くん、共通の趣味もないし。

 しかし陸上部で走ることが大好きな茜ちゃんと、運動会を嫌うような小太郎くんの、接点がないような2人が中心になって物語が進んでいくことになります。


興味を惹かれた理由


 ぼくが『月がきれい』に本格的に興味を持ったのは、まず1話のファミレスで2人が偶然会うシーンがあったから。

 敬愛する伊集院光が、「ファミレスで友達と会うことの気まずさ」を話していたことを思い出したのだ。
 もっとも伊集院のトークでは、自分=家族と一緒・友達=友達同士、だったけれども…

 あの電灯のヒモでシャドーボクシングをするシーンと並んで、この「ファミレスで仲良くもないクラスメートと鉢合わせしてしまう気まずさ」は、思春期を上手に表している、と感心した。

 もう1つ、キャラクターデザインの良さもある。

 最近、エウレカやGレコの吉田健一さんが、『君の名は。』のヒットにおける絵の力の重要性について語っておられたけれど、『月がきれい』でも特にキャラクターデザインは作品の魅力に大きく寄与していたと思う。
 目の大きい美少女キャラでは、これ程真剣に見なかったでしょう。

 中でもキャラデザにおけるハイライトの多用は、作品のテーマに直結しているのではと感じられる程だった。
 
 最終回中盤の、茜ちゃんの泣き顔も良かったね。

 さて、話の展開は。
 ストーリー上におけるこの作品の魅力はいくつかあるけれども、突き詰めるとそれは・オリジナル作品だからこその特典でもある「この二人は結ばれるのか、否か」という結末の行方に落ち着いていくと思う。


飽きない物語の構図


 優れた恋愛映画…
 例えば『ローマの休日』だったり『逢いびき』だったりトリュフォーの一連の映画がそうであるように、『月がきれい』にも一種の良質なミステリー作品を味わうのと同じような愉悦があったように感じている。

 つまり「この二人にはどのような結末が訪れるのだろうか?」という多くの視聴者が持つ興味は、ミステリー作品の真実に近づくそれと似た好奇心の高揚があるのです。

 その意味で思い出していただきたいのは最終回で、…あ、以下ネタバレありです。



 涙しながらの別れのキスや部屋に置いていくモフモフなど、視聴者をミスリードしておいて・どんでん返しを用意している、まさにミステリーのそれと同じ手法だったのではないでしょうか。

 毎回のEDのLINEが将来の二人のやり取りだと分かっていても、最後のシーンは胸に迫るものがあっただろうし、
 擦れているぼくもエラソーに「やるなあ」と思ってしまった。

 そもそも、この作品は当初から視聴者…少なくともぼくの予想を裏切ってきた。

 wikiによると、この作品の制作きっかけは映画『たまこラブストーリー』に影響されたかららしいが、まさに『たまこ』がそうであるように、中学生の恋愛を描いたら・クライマックスに告白が来ると思うでしょう。

 ところが『月がきれい』では3話で告白、4話で交際が始まってしまう。え、残りの8話何するの?

 それが様々な学校行事を挟みながら、「付き合う二人」を描き続けたことは心地良い裏切りだった。


傑出している一人のキャラクター


 最後に一つ、素晴らしく作られている特筆すべきキャラクターを指摘して終ろう。

 アニメファンなら具体的な作品やキャラクターが思い浮かぶだろうが、こういう設定でとかく起こりがちなのは、ヒロインより・恋心が報われないライバルの女の子に人気が集まってしまうことである。

 何故なら往々にして、これらの女の子は健気で、一途で、そしてポジション上必ず失恋するから。人気が出るに決まっている。

 そしてここが問題なのだが、物語の中心にいる男女の恋愛が成就して・視聴者が素直に祝福できるためには、サブキャラクターである失恋女子に視聴者が過度な魅力を感じたり感情移入してしまうようでは駄目なのだと思う。

 その点、千夏ちゃんは良かった(比良くんは良い男過ぎた)。

 友達のアイスを「ちょっと頂戴」という短いシーンを見せることで、「他人のものを欲しくなっちゃう」性格であることを明示しているし、
 悪びれもなく茜に自分の気持ちや進展を伝えたり・小太郎くんにふられて(本心はどうあれ)あっさり諦めるのは、彼女が青春ごっこをやりたいだけの―つまりは普通の少女である―ことの明示に他ならない。

 千夏ちゃんはちょっと反感をかってしまいそうな言動をするキャラになっているために、だからこそ、ラストシーンで小太郎くんと茜ちゃんの結末を視聴者は心置きなく祝福できる。

 その意味でも「脇役らしい脇役」であり、本当に素晴らしいキャラクター設定だと思う。

 あ、千夏ちゃんの「図々しいけど悪い子じゃない、普通の女の子」感が出ていてよかったですよ、村川さんの声も。

 『月がきれい』、本当に良いアニメでした。

※関連記事
『月がきれい』で主人公の安曇小太郎(ハネテル)くんが読んでいる太宰作品一覧

『月がきれい』のEDに流れるスマホでの会話は毎回違うようなので、文字起こししておく。



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