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『海がきこえる』と『耳をすませば』 [アニメ周辺・時事]

 昨日、『海がきこえる』がテレビ放映されたね。

 ぼくはこの作品が好きで、最初はLDで買い(時代感じるね)、DVDも所有しています。

 若手? にまかせたこの作品に、宮崎駿が「作品は『こうある』を描くんじゃない、『こうあるべき』を描くんだ!」と激怒したことが、同作のDVD映像特典で、スタッフから語られています。

 ぼくはまさに、単に「こうある」を描いているからこそ、『海がきこえる』が好きだったのですが。

 そして怒った宮崎が作ったのが、『耳をすませば』でした(監督は近藤喜文さんですが、宮崎が散々口を出したことは有名です)。
 まさに「こうあるべき」が描かれている映画で、ぼくは大学時代、「やれやれ」と思いながら映画館で見ていました。
 『カリ城』『ラピュタ』と素晴らしい夢を提供してくれた宮崎ですが、すでにこの頃から迷走は始まっていました。

 『耳をすませば』は一言でいえば、「みんなダイヤの原石なんだから頑張れよ」ってことです。

 でも、ダイヤに価値があるのは、希少だから。
 9割9分の人間は石ころで、だからこそ「石ころでもこう生きている」という作品が必要なのに、もう「オマエはダイヤの原石なんだ!」みたいな映画は不必要だと思っていました。
 今でもそう思っています。

 ちなみに富野作品で言えば、ぼくがニュータイプ=ダイヤが活躍する『ガンダム』より、駄目人間達がそれでも必死にあがく『イデオン』が好きなのは、上記の考えがベースにあるからです。

 話を戻しましょう。

 『耳をすませば』は、内容がオヤジの説教でありながら、「バイオリン職人を目指す高校生」「不思議な店」など、ファンタジーの要素をたっぷりブチ込んでいるのが、性質の悪いところです。
 現実逃避の内容ならそれで歓迎なのですが、それなら説教はしないでいただきたいのです。

 「内面のダイヤを磨け」という内容の映画を見せられても、自分を「石ころ」と自覚していれば、鬱陶しいだけです。
 これは、ぼくが夢見る頃を過ぎた大学時代に『耳をすませば』を見ている、ことも1つでしょうが、この映画は明らかに時代の流れに合っていませんでした。
 あえて書けば、「努力すれば報われる」スポ根ものが流行っていた70年代にピッタリの映画です。

 でも『耳をすませば』が公開されたのは1995年でした。

 同じ年、宮台真司は『終わりなき日常を生きろ―オウム完全克服マニュアル』を発刊し、もう世紀末も何もこねーから、茶髪にでもして生きようぜ? と言い出しています。
 時代が、「さて、ヒーローでもヒロインでもない俺達・私達はどう生きるか?」という問いを共有し始めたのだと思います。

 ぼくにとっては、リアリティが全くない「バイオリン職人を目指す男の子」とコンクリート・ロードなんて薄ら寒い歌をうたう女の子より(もうここら辺が、すでにオッサンが考えた「高校生」だと思わない?)、「私、生理の初日が重いの」と話すヒロインの方が、よほど胸に迫りました。
 原作者の氷室冴子さんの、「あのセリフ(生理)は、好きな男には言わない」とのコメントを読んだ時には、創作の秘密を垣間見た気さえしました。

 『海がきこえる』制作には、若手育成の目的もあったはずですが、宮崎がアンチテーゼのように『耳をすませば』を作ってしまいました。
 その『耳をすませば』も、後継者育成の狙いがあって近藤さんを監督にしたのでしょうが、宮崎自身が反省するように制作に口をだしてしまい、ジブリ最大の問題点である「宮崎後」の問題は解決されませんでした。

 ちなみに、先に書いたDVD『海がきこえる』特典映像では、望月監督がジブリで監督が育成されない要因を指摘したのに対し、鈴木プロデューサーは「才能ある人間なら経験がなくても監督ができる」旨の発言をしています。

 すでに伏線はあったのです。その3年後、ゴロー監督による『ゲド戦記』が公開されることになります。

 ぼくは、見てねーけど。


 

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コメント 7

都市色

僕も「海がきこえる」好きでした。
TV特番でしたよね。
リアルタイムで観て無性に感動した覚えがあります。
あのときの感動の記憶が強過ぎて一度も見返してないのです。
観てみようかな。

宮崎駿監督は黒澤監督作品のようにやや説教臭い感じはしますね。
by 都市色 (2011-07-17 09:16) 

坂井哲也

都市色さん、コメントとナイスありがとうございます。

ぼくも『海がきこえる』はリアルタイムで見ました。まあぼくはその後はまって、原作本やらLDやらを買って、何回も見直すわけですが。

今回の放送は、今見たらどう感じるのかがちょっと恐くて、見ませんでした。リアルタイムで見た時は主人公の年齢に近かったわけですが、今ではもうおっさんだからなあ。

by 坂井哲也 (2011-07-18 01:24) 

torajirou

なるほど確かに『海がきこえる』と『耳をすませば』は「こうある/こうあるべき」の対立かもしれないですね。

でも『海がきこえる』単体で見た場合どうですか?

というかラスト20分の「俺たちってこうだったよなー」は宮崎に勝るとも劣らない臭気を放っていたように思います。

まあ自分は『海がきこえる』好きですし望月ファンなんであまり悪くは言いたくないんですが、『絶対少年』でも「こうある」からの「こうだったよなー」という失敗を反復していました。前半ではあんなに輝いていた人物が後半ではグーで殴っても足らなくなる。

説話的には説教すらできない玉無し敗北主義だと思うので、鈴木プロデューサーの言う事はもっともだと思いますね。
by torajirou (2011-07-24 04:31) 

坂井哲也

torajirouさん、コメントありがとうございます。お久しぶりです。

おっしゃっているラスト20分って、多分、宴会~夜中に高知城を見上げるシーンですよね。
あそこ、ちょっと恥ずかしいといやあ恥ずかしいし、何より「こうだった」と振り返るのはまだ早い!(2~3年しか経ってないですよね)とは思うのですが、作品に惚れてしまえばあばたもえくぼと言うか、まあぼくはスルーできます。

詳しく話せるほど本数を見ていないのでアレなんですが、意図的なのか本質的な作家性なのかはともかく、望月監督って高邁的(でいいのかな)な所からは離れた所に位置する監督かと思います。

ぼくは、玉無しでもよろしいかと。もちろん富野好きですから、小さいのをぶるんぶるん振り回しているのも好みですが。
by 坂井哲也 (2011-07-25 14:39) 

torajirou

お久しぶりです(←すいません。更新チェックしていると書き込みが久方振りだという自覚が薄れるんです。)

元記事の論旨が鈴木の党派性にあるのはもちろんわかっているのですが、パヤオに対する興味が全くない自分は、望月愛と相まってつい『海がきこえる』をジブリから切り離したくなります。

>高邁的(でいいのかな)な所からは離れた所に位置する監督

まったくその通りだと思います。自分もそこが好きで、望月作品は割とチェックしてます。

玉無しの比喩はもちろん根拠≒説教を差していて、距離はあっても立場が無いのが彼の弱点だと思っています。

例えば『桃華月憚』ではカーネリアンの劣化るーみっくワールドを逆再生という形で批判したにもかかわらず、カオスアニメなどと言うどうでもいいレッテルでかたずけられてしまっています。しかし望月を擁護する事も苦しい。なぜなら距離はあっても立場が無いから。まるで山本寛。というか山本寛がまるで望月智充。(山本がいくら自意識過剰に振舞っても肝心の自意識が無色透明、せいぜいミーハーに過ぎないのは、エヴァをヌーベルバーグに見立てるなんて当たり前過ぎてつまらない事やってる時点ですでに明らかだったわけですが。)

で、望月は

「小津をアニメでやった」

「逆再生した」

とかいう。・・・だからなんだw。
多分なんでもない。立場が無いから。

>振り返るのはまだ早い!(2~3年しか経ってないですよね)とは思う

そこも含めていくらなんでもリアル「過ぎ」ませんか?

『海』は好きな作品だけど、それこそ坂井さんのこの記事が『耳』と対比させて語らねばならなかったように、パヤオの臭味とセットでないと評価の難しい作品だと思いますね。独立した価値を帯び損ってる。だから全然ジブリのオルタナティブになっていない。


あと自称民主党のブレーンが『サブカル神話解体』でいうには、後半の展開は少年漫画のラブコメんなんだそうです。少年漫画のラブコメというものを全く読んだことが無いのでそこら辺の機微は自分にはわかりません。
by torajirou (2011-08-02 14:55) 

坂井哲也

torajirouさん、コメントありがとうございます。

>パヤオの臭味とセットでないと評価の難しい作品

というのは、実感として分かります。何せ『海がきこえる』について書こうと数年前から思っていたのに、結局『耳』との対比での記事になったので。

私が『海』を見た時には当然、まだ『耳』なんてなかったので、独立した作品として『海』が好きなのですが。

『桃華月憚』は未見ですが(というか作品名すら知らなかったです)、「アニメで小津をやった」というのは望月本人の言葉なんですよね?
前の torajirouさんへの返信で、書こうかどうしようか迷って結局書かなかったのですが、望月って成瀬巳喜男と少しだぶるところがあります( torajirouさんの言葉を借りれば、自意識が無色透明なところ)。小津のような個性は感じない…

「距離はあっても立場がない」は言い得て妙ですね。 torajirouさんの仰りたいことがはっきり分かった気がします。

>山本寛がまるで望月智充

あっはっは。考えたこともなかったです。どうでもいいことですが、この2人喧嘩していますよね。と言うか山本が一方的に、かもしれませんが。

ちなみに最後のはぼくも分からないす。サブカル先生の言うことをどこまで信用していいのか、ということも含めて。自分で引用しといてナンですが。
ちなみに氷室冴子は、『氷室冴子読本』の中で、「それはお風呂で寝る人よ」のセリフについて、
それは女は言わないよなー、でも、男は言って欲しいんだね、きっと、と思ったわけです。

と言っています。男性スタッフの男性目線が、入ってくるってことなんですかね。
by 坂井哲也 (2011-08-02 23:46) 

サンフランシスコ人

1/16から 『海がきこえる』をサンフランシスコの映画館で上映します...

http://www.roxie.com/ai1ec_event/ocean-waves/?instance_id=17212

by サンフランシスコ人 (2017-01-06 03:56) 

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